人工血液の実用化はいつ?血液型不要&常温保存の“未来の輸血”が間近に
もしあなたや大切な人が突然の事故や病気で大量出血したら――。
輸血は命を救う最後の手段ですが、血液型の一致や保存期限といった制限があり、特に災害や離島では輸血が間に合わないこともあります。
そうした課題を根本から変えようとしているのが「人工血液」の研究です。
血液型を問わず、常温で2年保存できるという特性を持ち、すでに人への初投与も成功。2030年頃の実用化を目指し、臨床試験が本格化しています。
この記事では、人工血液とは何か、現在の進捗と今後の見通しまでを、わかりやすく解説します。
1. なぜ“人工血液”が必要なのか
1-1. 献血頼みの限界
日本の輸血医療は、献血によって支えられています。しかし、献血可能な若年層の人口は減少し続けており、供給不足が慢性化しています。
さらに、赤血球は21〜28日、血小板は4日しか保存できないため、在庫管理にも課題があるのです。
1-2. 災害・離島医療の課題
離島や災害現場では、緊急輸血が必要でも血液を迅速に運ぶ手段がないケースもあります。
現地で血液型の検査やクロスマッチができない場合、輸血そのものが困難です。
2. 人工血液とは何か?
2-1. ヘモグロビンを再利用した「赤血球もどき」
奈良県立医科大学などの研究グループが開発中の人工血液は、「ヘモグロビンベシクル(HbV)」と呼ばれる微小な球体です。これは、赤血球の酸素運搬機能を担う“ヘモグロビン”を、脂質膜で包んで小さく加工したもの。
なんと原料は使用期限が切れた献血血液。廃棄予定だった血液が再活用され、医療資源として蘇るのです。
2-2. 血液型不要・長期保存も可能
このHbVは、赤血球表面にある「血液型抗原」を除去しているため、ABO血液型を問わず誰にでも使えるという画期的な特徴を持ちます。
さらに、従来の血液製剤と違い、常温で2年間、冷蔵なら5年以上保存可能という安定性も魅力です。
3. 実用化への道のり:今どこまで進んでいる?
3-1. 2022年、初の人への投与が成功
2022年、奈良県立医科大学が実施した臨床第1相試験では、健康な成人男性に人工血液を点滴で投与。重篤な副作用は報告されず、安全性が確認されました。
この“first-in-human”試験は、日本の医療技術として世界でも注目を集めました。
3-2. 2025年に第2相試験へ拡大予定
現在は第2相(多人数・実際の患者への治験)に向けた準備段階にあります。2025年度から本格的な試験が始まり、有効性や副作用をさらに評価するフェーズに進む予定です。
3-3. 実用化は2030年を目標に
4. 活用が期待されるシーン
4-1. 災害医療
災害時、人工血液を緊急車両や避難所に配備すれば、即時に輸血対応が可能になります。特に多数の負傷者が出るケースでは大きな効果が期待されます。
4-2. 離島・へき地医療
常温保存できる人工血液は、血液の流通が不安定な地域の医療体制を強化する切り札になり得ます。血液型を問わないため、在庫管理も大幅に簡素化されます。
4-3. 臓器保存・外科手術への応用も
酸素運搬機能を活かし、人工血液は臓器保存や虚血性疾患の治療にも応用が検討されています。将来的には、手術や移植医療にも活用範囲が広がる可能性があります。
5. 実用化までの課題と展望
5-1. コストと製造体制の確立
人工血液の製造には高い技術とコストがかかります。今後は製造工程の効率化と量産体制の構築が不可欠です。
5-2. 厚労省の承認プロセス
あたらしい医療技術として使用されるには、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の審査と承認が必要です。これには安全性・有効性・安定性などの厳格な評価が求められます。
5-3. 民間連携と社会実装
実用化には、大学・行政だけでなく、民間企業との協力や資金支援も不可欠です。社会全体で支える新技術としての仕組みづくりも進められています。
6. まとめ:「実用化はいつ?」に答えるなら
人工血液の実用化は「夢物語」ではなく、2030年の現場導入を現実的に目指すフェーズに突入しています。血液型に関係なく、常温で長期保存できる輸血剤は、災害医療・救急搬送・離島医療などでの革命的ツールになり得ます。
今はまさに、その“未来の医療”を私たちが目撃している真っ最中です。
出典リンク
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m3.com(医療専門ニュース)https://www.m3.com/clinical/news/1245329?
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Science Portal(サイエンスポータル)https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20240801_g01
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知財図鑑
https://chizaizukan.com/property/artificial-red-blood-cells
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